ソフトの逆襲

先日、日経ビジネスの中に興味深い記事を発見しました。

 

「企業の経営者は自社の顧客を熟知し、既存事業を守ろうとする。しかし、破壊者は既存ビジネスとは全く異なる事業形態で市場に参入してくるため、初期の段階ではディスラプション(創造に向けた破壊)だと感じられない。誰かがあなたのところにやってきて、「明日あなたの会社の顧客をもらっていくよ」と告げることはない。ただ単に、あなたがそれまで大事にしてきた顧客が、一度も競合相手と見なしたことのないプレーヤーに突如として乗り移ってしまうのだ。その理由は圧倒的な低コストかもしれないし、製品に対する関心の変化かもしれない。いずれにせよ、テクノロジーが未来に与える変化を注意深く観察していない経営者は、いざディスラプションが始まったときには、まるでそれまで何も見ていなかったように感じるだろう。そして、その時点ではもう手遅れなのだ。」
(グーグルXの創設者:セバスチャン・スラン氏の話より)

 

まさに今、世の中で起こっているモノづくりの世界における変化を表していると思います。
簡単に言ってしまえば、IoT革命もその一つ。
モノづくり企業にとっては、今まで想定したことのないライバルが突如として現れる状況になっています。

 

今までのライバルの設定は、ポーターのファイブフォースの考え方をベースに考えられてきました。

 

・既存競合車同士の敵対関係(同業他社)
・新規参入の脅威
・代替品・代替サービスの脅威(新素材・別のビジネスモデル等)
・買い手の交渉力(顧客の購買力)
・供給者の支配力(流通の力関係)

 

この中の「新規参入」が、上記の問題とするところです。
従来は、新規参入する場合、「参入障壁」を乗り越えられるか?が一つの課題でした。
基本的に製造業の場合は、ほとんどが装置産業のため初期投資が非常に大きくなるので参入障壁が高いと言われてきました。
従って、比較的参入リスクの少ない(同業に近い)企業がその対象となってきました。

 

今、起こっている変化の一番大きな部分は、この新規参入企業の業種です。
よく見受けられるのが「IT企業がEMS企業を利用してモノづくりを始める」などですが、
これは単に製造業界に一時期流行ったファブレス企業の延長上にあると考えられるので、さほど気にする動きではないと思います。

 

むしろ気にしなければならないのは、何を重視しているか?です。
ファブレス企業ブームの時期は、「コストダウン」がメインでした。
ところが最近は「技術」の面にかなりシフトしている気がします。
設計者やデザイナーが造りたいものを造るために技術のある企業に製造を依頼する流れです。

 

この変化は、ある意味「マーケット・イン」から「プロダクト・アウト」への回帰に近いかも知れません。
ただ、以前の「プロダクト・アウト」よりもずっと高次元の「プロダクト・アウト」である事は、皆さんが身を持って感じていると思います。

 

「プロダクト・アウト」と言えば、メーカー側が顧客の要望を無視して作りたい商品を押し付けるイメージが強いと思います。
ただ、今の流れは、むしろ「便利さの新発見」的な要素が含まれているのを感じます。
時にはメーカーの一人よがりな商品が市場に出てくる事も有りますが、それはチャレンジ精神の副産物と捉えても問題ないほど、今までの生活方法を変える商品が続々登場しています。

 

なぜ、そのような事ができるのか?
これは、おそらく利益を確保する方法が、従来のモノづくりとは一線を画するからだと思います。
当然、モノを売って利益を得ることも重要ですが、それとは別のプロセスで利益を確保しているので、メーカー側が比較的大胆に市場にチャレンジしています。

 

利益確保の方法としては(特にIT系によく見られる方法ですが)、わかりやすい例で言えば、広告です。
他にもアプリ等での追加課金や使用環境の提案による新しい市場の創造など、ソフトとハードの両面で市場開拓しています。
また、ライセンスの相互使用などを他の製造メーカーに持ちかけて技術を相互使用するなど、利益確保が多様化しています。
ネット業界やソフト業界では同様の手口が横行していましたが、ハード面との相性の良さに気付いた各企業がこぞってそのようなモノづくりを進めて来ています。

 

これまではモノづくり業界においてはハード優位な考え方だったので、ソフトの部分はハードの一部仕様に過ぎなかった面が強かった気がします。
しかし、これからはソフト優位の側面が強くなるので、ハードで利益を確保していた企業は利益の確保が難しくなるかも知れません。

 

極端な話、もし仮にgoogleが車の全面に広告を載せることを条件に自動車を無料に近い形で売りに出した時、他の自動車メーカーはどう対応するのでしょうか?
googleが開発している自動運転の先には、そのような未来を想定しているかも知れません。

 

あなたにとってのディスラプションは、すでに足元に忍び寄ってきているのかも・・・

 

k.yamatani