4月~5月にかけて上場企業の決算発表が続々と行われていました。
アベノミクスの影響もあって、輸出産業では久々に良い内容の決算を発表する企業もありました。
そんな中、同じ輸出産業でもある電機業界の不振が目立っていました。
ここ数年、電機業界では商品のコモディティ化(汎用品化)による価格の下落に悩まされていると言われています。
特にテレビ事業は全体の足を引っ張る形となっていて、事業の撤退や縮小など企業が対応に四苦八苦する様子がニュースでよく取り上げられています。
ニュースや新聞ではコモディティ化に陥った原因として、どこでも簡単に生産できる商品だからそうなったと結論づけていますが、果たしてそうでしょうか?
そして、テレビ事業の採算悪化は商品のコモディティ化に原因があると言われていますが、本当にそれだけが原因でしょうか?
液晶テレビは当初1インチ1万円程度で販売されていましたが、価格競争の激化により1/3程度の価格まで下落したと言われています。
いかにもテレビが異常な状況のように語られることが多いですが、他にも強烈なコモディティ化によって価格が大幅に下落している商品を私達は知っています。
それは、鉄です。
例えば、昭和30年頃の異形棒鋼の価格は、30,000~40,000円/t 前後で販売されています。
(参考:日刊鉄鋼新聞)
景気の状況や外部環境の変化により価格は上下していますが、ここ最近では60,000~70,000円/t の間で推移しています。
一見、昭和30年頃と現在を比べてみると価格下落が起こっているどころか上昇していると感じますが、
実は昭和30年から平成25年の間に物価は6~10倍、大卒初任給は約15倍に跳ね上がっているのです。
仮にそれに添って考えると、昭和30年に 30,000円/t だった異形棒鋼は平成25年には少なくとも 180,000円/t 以上で推移していなくてはなりません。
ところが価格は、上記の通りです。
単純に考えると価格は1/3以下に下落した事になります。
価格推移をみればわかるのですが、高度成長期にかけて価格が上昇した後は下落基調です。
日本における鉄のコモディティ化は高度成長期にかけて一気に進んだと思われます。
そしてバブルの崩壊が需給のアンバランスに拍車をかけ、ここ数年は中国での粗鋼量の増加が世界的な不安定要素になっています。
おそらく商品のコモディティ化による価格下落は、流通量との関係の方が大きいと思います。
「流通量を増やす為にコモディティ化させる事」と「コモディティ化される事によって流通量が増える事」の相互作用によってコストの下落と流通量確保のための価格競争がコラボした結果、価格の下落に拍車がかかるのだと思います。
特に装置産業は、生産システムと物流システムを確立してしまったら、量を確保しなければ固定費の比率が膨らむ一方です。
自ずと採算確保のために量の確保に走らざるを得ません。
流通量の増加による商品のコモディティ化は必然です。
だから「人件費の安い国で簡単に製造できるから・・・」どうのこうのではなく、
単純に流通量を増やそうと思えば、価格の下落は避けて通れない道だったのだと思います。
むしろテレビ事業での問題は、これが2~3年の間に一気に起こったところにあると思います。
おそらくコモディティ化されていく過程で価格下落が起こる事は想定されていたと思いますが、
想像以上にそのスピードが早く、あまりに勢いが付き過ぎていたためにブレーキが効かなかった。
その影響で設備の償却や人員の調整、インフラの整備が追いつかないところへ需給バランスの崩壊が追い打ちをかけて、負のスパイラルに陥ってしまったのだと思います。
ただ、電機業界ではその変化があまりにも強烈だったために、その後の対策も比較的早い方ではないでしょうか?
すべてが経営者の失策とは言い切れなかった部分にも救いがあると思います。
問題は、数十年かけてジワジワその状況に陥っていった鉄鋼業界です。
変化のスピードが遅すぎて、自分達の方が電機業界よりも強烈なコモディティ化商品を扱っている自覚がないために、良くも悪くも低位安定の状況が続いている企業がたくさんあります。
そこから抜けだそうと各社が様々な戦略を考えているようですが、
コモディティ化の状況を前提としていないために戦略が空回りしている光景をよく目にします。
電機業界の苦しみは他人事ではなく、この業界の採算を好転させるヒントになるのかも知れません。
k.yamatani