空気

先週末(2024.11.17)に投開票が行われた兵庫県知事選挙は、様々なストーリーが交錯した劇場型の選挙として大きな注目を集めました。

結果として斎藤元知事が再選を果たす事となりましたが、そこに至った経緯が世間を賑わせています。

・特例で非公開で開催された百条委員会

・メディアの一方的な報道

・SNSによる様々なウワサの流布

基本的にネタ元は斎藤氏になりますが、彼自身が選挙中に行った演説ではこれらの話題にふれることなく、過去の県政の実績とこれからの県政に対する取り組みを真摯に語っていました。

逆に対抗馬となった稲村氏は上記の話題の渦中の人になってしまい、結果として負のイメージが強く出てしまいました。敗れた稲村氏が「誰と戦っていたのかわからなかった」と敗戦の弁を述べていましたが、個人的には彼女が世論の動きを把握できず、不用意に世論を敵に回す行動を取ってしまった事が大きな敗因の一つだと感じました。ある意味、彼女が世論の動きを的確につかんで斎藤氏と同じ立場に立ち、純粋に政策論争で戦っていれば結果は違っていたかもしれません。

また、同様にSNSを駆使して戦った東京都知事選の石丸氏との大きな違いは、斎藤知事がそれまで行ってきた県政を県民が認めていた事にあると思います。今回は特にワイドショー的な話題が表面に出過ぎていたのでSNSを不安視するニュースを多く拝見しますが、そもそも過去の県政が悪ければ県民は選ばなかったと思うので、その指摘は時世の流れを的確につかんで動く事が出来なかったメディアの言い訳に過ぎません。結果、自分達は正しいというポジションで有権者をバカにするような報道を続けたためにメディア自身が稲村氏と同じ過ちを犯してしまっている感じがしました。

結局、最終的に判断されるのは日々の行動の正しさ。

そして、そこから創造されていく空気。

様々なフィルターが掛かった選挙ではありましたが、それを実感させられる選挙でした。

代替品

経営学者のマイケル・E・ポーター教授が開発した経営分析のフレームワークにファイブフォースと言うものがあります。有名なフレームワークなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

簡単に説明すると企業の競争環境には5つの脅威があるとされています。新規参入の脅威、売り手の交渉力、買い手の交渉力、代替品の脅威、競合企業の脅威です。

この中で新規参入と競合企業の脅威はわかりやすいと思います。売り手の交渉力とは、いわゆる仕入先からの値上げ交渉やサービスの変更がこれにあたります。逆に買い手の交渉力とは、顧客からの値下げ依頼などがこれにあたります。この4つの脅威は普段の環境で触れる事が多いと思うのでイメージを浮かべやすいと思います。

そして、一番厄介なのが代替品の脅威です。なぜ、厄介なのかと言うと、これが訪れると利益が減少するだけではなく、売上そのものが吹き飛ぶ可能性が高いからです。

例えば、スマートフォンの存在です。以前から使用されていた携帯電話のガラケーに対して、スマートフォンの登場は新規参入にあたりますが、これに様々な機能を付加されたことにより煽りをくらった業界が多発しました。まさか、携帯電話の革新がカメラやパソコンだけでなく、書籍や広告など一見何の関係もない業界に大きな影響を与える事になると想像していた人は少なかったと思います。

そこで先日発表されたApple製品の登場です。その中でもAirPodsという製品の改良が思わぬ業界に影響を与えそうです。

Appleの「AirPods Pro 2」、FDAの市販補聴器ソフトの認可取得

もともと補聴器は医療機器であるためニッチな業界でした。そのため価格競争が少なく、安定した収益を得ている企業が多かったと思います。そこに通常使用できるイヤホンが参入する事になりました。いわゆる、イヤホンのスマホ化です。高性能で補聴器を付けている引け目を感じる事もない商品の登場は、市場に大きな影響を与えるかも知れません。これだけでなく、Apple製品は医療機器の業界をどんどん脅かせています。

今回は医療機器業界の話でしたが、古くからある産業や業界ほど現在のテクノロジーや技術をあてはめると簡単にひっくり返りそうなネタがたくさんあります。

常識にとらわれずに柔軟な思考で自らを変革していく力が問われています。

文明と文化

作家の司馬遼太郎さんがある本の中で文明と文化の違いについてこのようにふれています。

「文明」:普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの

「文化」:不合理なもの・特定の集団(たとえば民族)においてのみ通用する特殊なもの・他に及ぼしがたいもの・普遍的でないもの

例えば、企業活動において営業手法、設備投資、作業効率の改善などノウハウを容易に横展開できるものは「文明」と言えると思います。

逆に企業に根付いている習慣、人間関係、雰囲気、社員の意識など簡単に他社が模倣できないものが「文化」になります。

個人的な考えとして、利益を生み出す過程が文化に紐付いている企業は収益性が高く、市場の変化に対して粘り強く生き残る確率が高いと感じています。なぜなら普通であることが、利益に結び付く活動だからです。そのため余計なエネルギーを使うことなく、粛々と改善を進めながら生き残っている感じがします。

それに対してノウハウや設備に依存が大きい場合、対応が朝令暮改に成り易く何をやっているのかわからなく成ることが多々あります。その上で企業の改革を経営コンサルに委ねたり、自社の文化に合わないオーバースペックな設備を導入するなど、非常に大きなエネルギーを使うパターンが多く見受けられます。結果、一次的に利益を上げることが出来ても、それを継続する事が難しくなります。

得てして、文明は発散し崩壊しやすいので、安易にそこに答えを求める事にはリスクが伴います。そして、自社の文化に合わない文明をそのまま導入する事は、不要な混乱を招くことに成り兼ねません。

他社が上手く行っていることを自社に取り込む際は、上辺の部分(文明)だけを見ずにそれが上手く出来ている背景(文化)にも注目して、自社の文化に合うものかどうかをよく吟味した方が良いのではないでしょうか?

企業の文明は経営者の思考を反映しますが、文化は経営者の思想を反映すると思います。

日々、脚下照顧の気持ちを忘れないことが大事なのでしょう。

夏休みの宿題

どんな企業でも一緒なのでしょうが、日々、様々な勧誘や売込みのDMやメール、電話をいただきます。

枕詞にありったけの誉め言葉をいただくので悪い気はしないのですが、そのほとんどが表向きに紹介させていただいている当サイトの情報で満たされています。

ハッキリ申し上げて、ここに載っている情報は本で言うならただの表紙や目次に過ぎません。中身の方は、良い部分も悪い部分もごった煮です。ここで働く社員達の立場、個性、能力、目的、家庭など、それらを抱えた個人同士がぶつかり合いながらブレンドされた活動が当社の味わいであり、当社の文化でもあります。

そうなんです。毎日届くDMやメールの内容が、夏休みの最終日に慌てて書かれた読書感想文のようになっているのです。

いつの日か読み応えのある読書感想文が提出される日が来るのでしょうか…

民意のうねり

先週末から今週にかけて世界的に注目された大きな選挙が実施されました。

一つはイギリスの下院総選挙。

14年ぶりの政権交代をもたらしす結果となりました。EUの離脱の中で政権を運営した保守党に対して国民がNOを突き付けた形となり、今後のイギリスの立ち位置に注目が集まっています。

次にイランの大統領選挙。

当初優勢とみられていた保守派の候補が敗れて、改革派のペゼシュキアン氏が当選しました。欧米各国に対して融和的な大統領の誕生が混迷する中東情勢にどのような影響を与えるのかが注目されています。

そしてフランス議会選挙。

6月末に行われた第一回選挙では極右の国民連合が大勝したサプライズをもたらしましたが、今回行われた決選投票では左派連合の新人民戦線が躍進し、マクロン大統領が率いる中道連合は議席を大きく減らしました。マクロン大統領が大きな賭けをする形で始まった選挙ですが、結果は大統領の目論見通りになりませんでした。今後、マクロン大統領は難しい政権運営を強いられる事となります。

最後に東京都知事選挙

こちらは前職の小池氏が無難に勝利しましたが、2番手に無所属新人の石丸氏がくい込み、大きな組織票を持っていた蓮舫氏が3番手になりました。ここで2位に食い込んだ石丸氏は10代・20代・30代で得票数が最も多く、主に小池氏を支持したのは高齢者たちでした。結果として人口構成が大きく影響を与えることになりましたが、これから社会を担っていく若者達が政党や組織票、既存メディアからの影響を受け難いことが、ここまで表面化した選挙結果も珍しいと思いました。

総じて、これほど中身の濃い選挙が連日行われたことは珍しいと思います。ここ数年の環境の変化の中で、世界的に政治に対する国民のストレスが相当高まっています。

もしかしたら、これから行われるアメリカの大統領選挙が最終的なトリガーとなって、世界の構図が大きく変わっていくのかも知れません。

国民に媚びる低俗な政治が行われなければいいのですが…。

毒まんじゅう

最近、企業の賃金体系変更のニュースをよく見かけます。

三井住友銀行、年功序列型賃金を廃止の衝撃…能力重視で年収5千万円も(2024.6.18 Business Journal)

一見、これから就職をする若者たちにとって好意的な話に聞こえますが、この方針転換の目的は、むしろ逆だと思います。

基本的に新卒採用は社員教育とセットになっています。なぜなら、「使い物にならない」のが前提だからです。これは別に新卒が悪いわけではなく、何も知らないので当然です。ただ問題なのは、この教育に数年の時間を要する場合が多く、且つ、育ったタイミングで転職してしまうケースが目立つようになってきた事です。いわゆる、投資損です。

今までは、この投資損がなるべく発生しないように企業側があれやこれやと従業員保護の施策を並べてきましたが、ついに堪忍袋の緒が切れたようで…。これからは、投資すべき人に対する選別が厳しくなると思います。その結果、会社に大きく貢献する人には相応の待遇で応じますが、そうでない人は…。

美味しそうな毒まんじゅうを食べて生き残る覚悟はできていますか?

人材不足ドミノ

イオンが特定技能外国人を大量採用する方針を発表しました。

イオン、特定技能外国人4000人受け入れ 総菜加工や清掃(2024.6.25 日本経済新聞)

そもそも、この背景には政府の特定技能外国人の拡大方針がありますが、数年前の特定技能外国人受け入れの雰囲気とは少し違った印象を受けました。

以前、ほとんどの企業において特定技能外国人を受け入れる動機の本音は「安い労働力を安定的に確保したい」というものだったと思います。その為、来日した人達に対する待遇や環境が決して良いものとは言い切れない状況が多々ありました。

ただ、今回のニュアンスは少し違っていて、単純に人手不足に対する危機感のようです。特にアルバイトやパートが担っていた単純労働を担う人がいない。今回の採用条件や環境整備等を確認すると決して「安い労働力」とは言えないと感じました。

単純労働を担う人が足りない問題は少子化や税制問題など様々な要因が重なっているので、簡単には解決しないと思います。むしろ問題は、その状況が年を追うごとに厳しくなっていく事です。いずれ、特定技能外国人の受入れでも対応しきれなくなると思います。

また、イオンのような福利厚生が充実した大企業が本格的に特定技能外国人の採用を始めるとそれらが劣る企業は外国人の採用が難しくなるかも知れません。特に今まで安い労働力を求めて技能実習生の存在に依存してきた企業は、より一層、人材の確保に苦しむようになるでしょう。そして、限界はいずれ確実に訪れます。

大手企業の人材不足ドミノが倒れ始めた時が、そのタイミングが近づいてきた合図です。

リアル椅子取りゲーム

鉄鋼業界で起こっている変化に対する危機感に企業の大小は関係なさそうです。

日本製鐵の橋本会長が全鉄連の総会後の記念講演会で、こんな話をされていたそうです。

橋本日本製鉄会長が全鉄連で講演/「流通の再編・合理化は不可避」

全国粗鋼「6000~7000万トンに減少も」/グリーンスチール、開発成功なら増加

(2024.6.17-18 鉄鋼新聞)

まさにおっしゃる通りだと思いました。

人口の減少、世界のブロック経済化、自動車業界の変革などを考えるとそうなるのが自然です。ただ、最後のグリーンスチールの話は希望的観測だとは思いましたが…。

個人的に鉄鋼の流通業界の再編スピードは、世の中の変化に対して大きく後れを取っていると感じています。更にすでにポジティブな再編の時期は終わってしまっていて、ネガティブな再編が訪れるのを戦々恐々としながら待ち受けている印象すらあります。

今後、国内で使用される鉄の量が急激な速さで減少していく中で、どうやって生き残っていくのか?

椅子を取りに行く事だけが、椅子取りゲームで勝つ方法ではありませんよね。

蛇足

「楚に祠る者有り。其の舎人に卮酒を賜ふ。舎人相謂ひて曰はく、「数人にて之を飲まば足らず、一人にて之を飲まば余り有り。請ふ地に画きて蛇を為り、先づ成る者酒を飲まん。」と。一人の蛇先づ成る。酒を引きて且に之を飲まんとす。乃ち左手にて卮を持ち、右手にて蛇を画きて曰はく、「吾能く之が足を為る。」と。未だ成ざるに、一人の蛇成る。其の卮を奪ひて曰はく、「蛇固より足無し。子安くんぞ能く之が足を為らんや。」と。遂に其の酒を飲む。蛇の足を為る者、終に其の酒を亡へり。」

絵の上手い人が「自分は蛇に足を書き足す事ができる」と自慢して描いたところ、周りから「それはそもそも蛇じゃないじゃん!」と指摘される有名な話です。

先日起こった話はこれに近い話かもしれません。

トヨタ、過信が生んだ法令軽視 情報共有進まぬ風土(2024年6月4日 日本経済新聞)

自動車の認証手続きを行う際に「法規よりも厳しい自社の品質基準」で行っていたために法令違反を指摘された話です。

正直、何が問題なのかわからなくなりますが、おそらく「法」というもの自体の解釈が重要になってくるのだと思います。

例えば、道路を60km/h以下で走行しなさいという標識があった場合、5km/hで走行しても良いのか?という問題です。

おそらく、直感では人によって正否の判断が割れます。ただ、「法」は基本的に誰がどこから見ても「正」ではないと成立しないと考えれば、判断の正否が分かれる状況は「否」です。

ただ、今回の話は「法」を軽視されたことに対する見せしめの意味も含んでいる気がしないこともないですが…。

製造業界に携わる者として、一日でも早い正常化を望みます。

エコーチェンバー

総務省が情報通信白書の中でふれている言葉の中にエコーチェンバーという言葉があります。簡単に言うと自分と似た興味関心を持った人達のコミュニティの中で意見を交わす事により思考が偏ってしまう状態のことのようです。

この言葉を思わぬところで耳にしました。それは、ボーイングの安全文化に関する報告書の内容についてのインターネットのインタビュー記事です。(NEWSPICKS 2024/5/26【証言】経営陣が現場を軽視。ボーイング「凋落」が始まった瞬間

その中で経営と現場の乖離がそれぞれの部門でエコーチェンバーを引き起こして、様々な問題のトリガーとなったのではないかとされています。

ただ、この状況は大企業のように組織が複雑になるとよくある事だと思います。その昔、「事件は会議室で起こってるんじゃない!現場で起こってるんだ!!」という名台詞もありました。

ボーイングの場合は工場に隣接していた本社を都市部に移した結果、経営層が現場を訪れる機会が大幅に減り、現場内で起こっている問題が経営課題とリンクしなくなったことが様々な問題を放置するきっかけになったそうです。

創業間もない時期は現場と経営者が一体化している場合がほとんどなので基本的にそのような問題は発生しませんが、企業が成長し、世代が変わっていく中で現場と経営層の間に溝が発生することは、よくあることだと思います。

必ずしもそれが問題になるとは限りませんが、自分の周りの顔がいつも同じ状況であったり、同じ立場の人達や同じ業界の人達としか接点がない場合は、無意識にエコーチェンバーの罠に嵌っているいる可能性が高いので注意した方が良いと思います。

ここ最近、同じ人の顔しか見てない方。あなたのことです!